大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島地方裁判所 昭和45年(行ウ)3号 判決

原告 鹿児島交通株式会社

被告 鹿児島税務署長

訴訟代理人 岡崎真喜次 外七名

主文

被告の昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度の法人税について、昭和四四年八月三〇日付で原告に対してなした更正処分のうち所得金額四、五六六万六、〇〇四円を超える額に対する部分を取消す。

原告のその余の訴をいずれも却下する。

訴訟費用は一〇分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告

「被告が、原告の昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、昭和四三年七月一一日付で原告に対してなした更正処分のうち、原告が指宿観光株式会社から購入した土地の購入価額五、二一四万四、〇〇〇円のうち二、六〇七万二、〇〇〇円を同会社に対する贈与であると認定した部分を取消す。被告が、原告の本件事業年度の法人税について、昭和四四年八月三〇日付で原告に対してなした更正処分のうち、所得金額四、五六六万、六、〇〇四円を超える額に対する部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

二  被告

(一)  本案前の申立

「原告の、被告が昭和四三年七月一一日付で原告に対してなした本件事業年度の法人税の更正処分の取消を求める訴を却下する訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

(二)  本案についての申立

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二当事者双方の主張

一  原告の請求原因

(一)  原告は、本件事業年度の法人税について、昭和四二年五月三一日に被告に青色申告書による確定申告をした。

(二)  これに対して被告は、昭和四三年七月一一日付で更正処分(以下これを「第一次更正処分」という。)を行つた。この第一次更正処分において、被告は、原告が本件事業年度中に指宿観光株式会社(以下「指宿観光」という。)から購入した土地の価額金五、二一四万四、〇〇〇円のうち金二、六〇七万二、〇〇〇円は適正価額を超えるものであるとし、これを同会社に対する贈与と認定し、その損金算入を否認した。

(三)  原告が右第一次更正処分を不服として同年八月一一日熊本国税局長に審査請求をしたところ、同局長は昭和四五年一月二〇日付をもつて棄却の裁決をなした。

(四)  しかしながら、被告がなした第一次更正処分のうち右の土地購入価額の一部二、六〇七万二、〇〇〇円を贈与と認定した部分は違法であるので、原告は本訴において右認定の取消を求める。

(五)  ところで、被告は本件事業年度の法人税について、原告に対し昭和四四年八月三〇日付で再び更正処分(以下「第二次更正処分」という。)を行つた。この第二次更正処分において被告は、原告の本件事業年度の所得金額を第一次更正処分において被告が認定した四、五六六万六、〇〇四円から、六、〇四七万八、五〇四円に増額更正した。

(六)  原告が右第二次更正処分を不服として同年九月三〇日熊本国税局長に審査請求をしたところ、同局長は昭和四五年一月二〇付をもつて棄却の裁決をなした。

(七)  しかしながら、被告がなした第二次更正処分のうち所得金額四、五六六万六、〇〇四円をこえる額に対する部分は違法であるので、原告は本訴においてその取消を求める。

二  被告の本案前の申立の理由

(一)  原告は、被告がなした第一次更正処分のうちの、指宿観光から購入した土地の価額についての被告の認定の取消を求めているが、原告の請求原因からも明らかな如く、被告は、原告の本件事業年度の法人税について第一次更正処分の後、昭和四四年八月三〇日に第二次更正処分をなしたので、第一次更正処分は第二次更正処分に吸収され独立の存在を失うに至つた。したがつて、原告には第一次更正処分のうちの認定の取消を求める訴の利益がない。

(二)  原告は、指宿観光から購入した土地の購入価額のうち被告が同会社に対する贈与と認定した部分の取消を求めているが、被告は第一次更正処分およびこれを吸収した第二次更正処分のいずれにおいても、右土地購入価格のうち、金二、六〇七万二、〇〇〇円を指宿観光への贈与と認定し、このうち金二、五七四万六、一〇〇円を寄附金損金不算入額として原告の所得に加算すると同時に、右二、六〇七万二、〇〇〇円を土地の取得価額過大として所得金額から減算しているので、所得金額計算のうえでは、かえつて課税所得金額が三二万五、九〇〇円減少している。したがつて右認定を取消しても原告の課税所得が減少するわけではないので、原告には右認定の取消を求める法律上の利益がなく、本訴は不適法である。

三  被告の本案前の申立に対する原告の反論

(一)  第一次更正処分と第二次更正処分とでは更正の理由は全く異なる。被告は第一次更正処分後新たに発見した別個の理由で追加的に第二次更正処分を行つたものであることは明らかであるからいずれも独立して存在しており、取消訴訟の対象になる。

(二)  指宿観光からの土地購入価額の一部否認は、当期の法人税額の計算上原告に不利益を生ずることはないが、右土地の取得価額に変動を来たし、後に原告がこの土地を他に売却処分した場合の売却益の計算、ひいては売却益にかかる税額の計算を左右するものであり、その時点において、原、被告間に課税上の紛争を生ずることは極めて明らかであるところ、土地の適正な取得価額は取得時期に近い程正確な認定が可能であるから、現在において右認定の取消を求める訴を提起する利益があるものとしなければならない。

四  請求原因に対する被告の認否

(一)  請求原因(一)および(二)の各事実は認める。

(二)  同(三)のうち熊本国税局長が棄却の裁決をしたとの部分を否認し、その余の事実は認める。同局長のなした裁決は第一次更正処分が認定した所得金額のうち一〇〇万六、六八八円を取消しているのであつて、全部棄却ではない。

(三)  同(四)の主張は争う。

(四)  同(五)および(六)の各事実は認める。

(五)  同(七)の主張は争う。

五  被告の主張(更正処分の適法性について)

(一)  指宿観光からの土地購入価額の一部否認について

原告は、昭和四二年三月に指宿観光から鹿児島県指宿市十二町一九五五番の土地(以下「本件土地」という。)を坪当り四〇万円、(合計五、二一四万四、〇〇〇円で購入した。しかしながら、本件土地の右購入当時の価額は、不動産取引精通者の評価意見および本件土地の周辺にある土地の売買実例からみて坪当り二〇万円が相当であつて、原告の購入価額坪当り四〇万円は著しく高額である。ところで指宿観光は原告と同一資本系統の法人であるので、贈与が容易に行われる関係にあること等よりして、被告は、右の時価相当額をこえる部分の金額二、六〇七万二、〇〇〇円を原告から指宿観光に対する贈与と認定したものである。

(二)  第二次更正処分の適法性について

(イ) 被告は第二次更正処分において、原告の本件事業年度における所得金額を第一次更正処分に示した四、五六六万六、〇〇四円から六、〇四七万八、五〇四円に増額更正したが、これは、原告が本件事業年度においてその有する株式会社鹿児島新報社(以下「鹿児島新報社」という。)の株式六万二、〇〇〇株(帳簿価格一株五〇〇円、総額三、一〇〇万円)について、株価を一株一二五円、総額七七五万円と評価し、帳簿価額との差額一株につき三七五円、総額で二、三二五万円の有価証券の評価損が生じたものとして申告したのに対し、被告がこのうち四万株についての評価損一、五〇〇万円の発生を否認したことによるものである。

(ロ) 原告は、従来から鹿児島新報社の株式二万二〇〇〇株を有していたところ、昭和三九年九月、南薩鉄道株式会社(以下「南薩鉄道」という。)を吸収合併したのに伴い、同会社が有していた鹿児島新報社の株式四万株をも受入れたのであるが、右合併当時における同株式の価額は一株一二四円程度にすぎなかつた(同株式は証券取引所に上場されておらず、気配相場および適切な売買実例も存しないのであるが、鹿児島新報社の昭和三九年三月三一日当時の貸借対照表を基礎とすれば同会社の純資産額は一、九九〇万一、五四八円と算定され、これを同会社の発行済総株式数一六万株で除すと一株一二四円程度という価額が算出できる)。

(ハ) ところで法人が合併により取得する有価証券の取得価額を定めるに当つては、商法上の資本充実の原則(時価)と比較して不当に高い価額で株式を受入れることは資本充実の原則に反し、会社債権者、株主の利益保護のため許されない)、商法第二八五条の二の「流動資産の価額はその取得価額による時価が取得価額より著しく低いときは時価による」旨の規定、法人税法施行令(昭和四〇年三月三一日政令第九七号)第三八条第一項第四号かつこ書の「有価証券の受入価額がその当時における有価証券取得のため通常要する価額をこえる場合には当該価額に相当する金額をもつて取得価額とする」旨の規定(この政令は昭和四〇年四月一日から施行されるものであるが、創設的規定ではなく、従来から同様処理されていたものを明文化したにすぎない)、旧法人税法施行規則(昭和二二年三月三一日勅令第一一一号)第一九号の六第一項の「払込および購入以外の方法により取得した株式については、取得時における価額にそれぞれ購入手数料その他当該株式を取得するために直接要した費用の額を加算した金額とする。」との規定などに照らし、合併時における当該株式の適正妥当な評価による時価をもつて取得価額としなければならない。

もつとも、合併により受入れた株式の取得価額の算定方法については、昭和三四年八月二四日付国税庁長官通達直法一-五〇(以下「旧通達」という。)の一〇一「合併により合併法人が被合併法人から受け入れた株式の取得価額は、合併法人の受入価額によるものとする。」との通達があるが、これは受入価額を時価をこえて不合理に高額にすることまで許容する趣旨のものではない。

(ニ) 原告は、合併により南薩鉄道から株式および土地等の資産を受入れたが、この会計処理は南薩鉄道の帳簿価額でなされているため株式の受入価額は合併時の時価を超え、土地の受入価額はその時価を下まわるものであつた。

(ホ) したがつて、原告が南薩鉄道から合併により受入れた鹿児島新報社の株式四万株については、前記(ハ)の理由により合併時に額面金額一株五〇〇円から時価一二四円に評価換を行い四万株を時価総額四九六万円で受入れたものとみるべきである。そうすると、本件事業年度において、原告がなした鹿児島新報社の株式の評価損の計上は、南薩鉄道から受入れた四万株についての一、五〇〇万円の部分について、すでに原告の南薩鉄道との吸収合併時の事業年度(以下これを「合併事業年度」という。)になされた評価換と重複して行うことになるので、被告はこの部分の損金計上を否認したものである。

(ヘ) 被告は、原告の合併事業年度の法人税については、右の鹿児島新報社株式の評価損の発生が認められたにもかかわらず、更正処分をしていないのであるが、これは、原告が合併により南薩鉄道から受入れた土地(鹿児島市下荒田町七三八の四一宅地三九六七平方メートル、同町七三八の三九宅地一七七五平方メートル)の適正時価が六、二五三万二、〇〇〇円であるところ、原告はこれを帳簿価額一、八六七万二、七五〇円で受入れておりその差額四、三八五万九二五〇円は右土地の合併事業年度の評価益と解すべきであるので、前記株式の合併時の評価損はすべて右土地の評価益と相殺され、経理処理において表現されなかつたとみるべきであり(単に合併時における受入資産相互間の価額の移しかえにすぎないことになり、課税標準等または税額等の計算に影響を及ぼさない)、したがつて被告は原告の合併事業年度の法人税については、更正処分をしなかつたものである。

六  被告の主張に対する原告の認否

(一)  被告の主張(一)のうち、原告が昭和四二年三月指宿観光から本件土地を坪当り四〇万円、合計五、二一四万四、〇〇〇円で購入したことは認めるが、その余の主張は否認する。

(二)  被告の主張(二)の(イ)事実は認める。

(三)  同(ロ)のうち、原告が従前から鹿児島新報社の株式二万二、〇〇〇株を有していたこと、昭和三九年九月に南薩鉄道を吸収合併して鹿児島新報社の株式四万株を受入れたこと、鹿児島新報社の昭和三九年三月三一日当時の貸借対照表をもとにした純資産額が被告主張の額であること、同会社の発行済総株式数が一六万株であることは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)  同(ハ)のうち、被告指摘の旧通達一〇一があることは認めるが、その余の主張は争う。

(五)  同(ニ)のうち、原告が南薩鉄道との合併により株式および土地等の資産を受入れたこと、この会計処理が南薩鉄道の帳簿価額でなされたものであることは認める。

(六)  同(ホ)の主張は争う。

(七)  同(ヘ)のうち、被告が原告の合併事業年度の法人税について更正処分をしなかつたこと、原告が合併により南薩鉄道から被告主張の二筆の土地を受入れたこと、この二筆の土地の受入当時の帳簿価額と時価との差額(含み益)が一、五〇〇万円以上あつたことは認めるが、その余の主張は争う。

七、被告の第二次更正処分の適法性の主張に対する原告の反論

(一)  原告が南薩鉄道から承継した鹿児島新報社の株式はいわゆる企業支配株式等に属する。企業支配株式等とは、「法人が評価換をなす日の属する事業年度の終了の時の現況において、当該法人の有する株式又は出資を発行する法人の特殊関係株主等が、当該発行済株式の総数又は出資金額の百分の二十五以上に相当する数の株式又は金額の出費を有し、かつ、当該法人が当該特殊関係株主等である場合における当該法人の有する当該発行法人の株式又は出費をいう」ものである(旧法人税法施行規則第一七条第四項)。原告が合併により南薩鉄道から承継した鹿児島新報社の株式四万株は同会社の発行済株式総数一六万株の二五パーセントにあたり、まさに企業支配株式である。

ところで、旧法人税法施行規則は、企業支配株式等については原則として評価損の計上を認めず(同規則第一七条の二第二項)、例外的に発行法人の財産状態が著しく悪化したため、その企業支配株式等の価額が低下した場合に限つて評価損の計上を認めていた(同規則第一七条の二第四項)。このように企業支配株式等について原則として評価損の計上を認めてないのは、短期保有ということが考えられず、時価の算定が困難であることに加えて、更に積極的な意味がある。即ち、企業支配株式等を取得する場合は通常の投資利廻り(配当及び値上り益を含めての投資利廻り)を基準とする株価以上の高値まで買い進むことが多い。これは企業の支配権を獲得するためにほかならないから、その場合の株価は投資利廻りを基準とする価額に支配権の価値が加算されていることになる。したがつて買集めが終つたために株価が投資利廻りを基準とする価額まで低下したとしても、企業支配の状態が継続する限り評価損を認めない方がより株式保有の実態に即しているというべきである。これを要するに、税法にいう企業支配株式等は、証券取引所の相場の有無に関係なく、特殊関係株主による支配状態によつて判定されるべきであり、発行法人の資産負債の状況が著しく悪化した場合を除き、原則として評価損を認めないのが適当なのである、

したがつて原告が、合併により南薩鉄道から承継した鹿児島新報社の株式四万株について、「合併により合併法人が被合併法人から受入れた株式の取得価額は、合併法人の受入価額によるものとする。」という前記旧通達一〇一に準拠して、合併事業年度において、南薩鉄道の取得価額(額面)である一株五〇〇円をもつて受入価額としたことは正当である。

なお、被告引用の商法第二八五条の二は、流動資産の評価についての規定であり、企業支配株式は固定資産の評価に準じて取扱われるものであるから、本件について商法第二八五条の二の適用はない。被告引用の法人税法施行令は附則第一条により昭和四〇年四月一日から施行され、附則第二条により同政令は右施行日以後に終了する事業年度の法人税について適用されるものであるから、昭和四〇年三月三一日に終了した原告の合併事業年度の法人税には適用されないものである。被告引用の旧法人税法施行規則第一九条の六第一項は法人の合併の場合の株式の取得価額に関する規定ではない。

(二)  被告は原告の合併事業年度の法人税について更正可能な三年以内に更正処分をしないでおいて、本件事業年度の法人税の更正処分において右合併により承継した鹿児島新報社株式の評価損と土地の評価益とが右合併事業年度の所得金額の計算のうえで相殺されたものと主張するのであるが、このように後日になつて合併事業年度の所得計算を当該事業年度の法人税の更正処分によらず変更し評価損益を自動的に計上することができると解する根拠が全く不明である。

(三)  被告は第二次更正処分の理由として「これは南薩鉄道から引継いだ資産のうち土地等の含み資産の評価益などにより有価証券の評価損が相殺されているとみるべきであり」と付記しているが、対象となる「土地等」が特定されておらず、しかも土地の合併時の評価益の額および評価換後の取得原価が全く不明であり、原告は将来右土地を他に売却する場合売却益の算定上不測の困難に陥ることになる。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

第一第一次更正処分のうちの、土地購入価額についての被告の認定の取消請求について

原告が本件事業年度の法人税について昭和四二年五月三一日に被告に青色申告書による確定申告をしたこと、これについて被告が昭和四三年七月一一日付で第一次更正処分を行い、この中で、原告が指宿観光から購入した土地の価額金五、二一四万四、〇〇〇円のうち金二、六〇七万二、〇〇〇円は適正価額を超えるものとして、これを同会社に対する贈与と認定し、損金算入を否認したこと、その後、被告が昭和四四年八月三〇日付で第二次更正処分を行つたこと、第二次更正処分では、第一次更正処分で認定した原告の本件事業年度の所得金額四、五六六万六、〇〇四円を六、〇四七万八、五〇四円と増額認定したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

右の当事者間に争いのない事実によると、第一次更正処分は後になされた第二次更正処分に全部吸収されて独立の存在を失うに至つたものと解するのが相当である。してみると、第一次更正処分において被告の指宿観光からの土地購入価額の一部を指宿観光に対する贈与と認めた認定の取消を求める原告の請求は、他の点について判断するまでもなく訴の利益がないもので、不適法といわざるを得ない。

第二第二次更正処分のうち土地購入価額についての被告の認定の取消請求について、

一  被告が第二次更正処分においても、本件事業年度に被告が指宿観光から購入した土地の価額金五、二一四万四、〇〇〇円のうち金二、六〇七万二、〇〇〇円は適正価額を超えるものとして、これを指宿観光への贈与である、との認定を維持したことは、被告が自認しているところである。してみると、原告は第二次更正処分における被告の右認定の取消請求を明示的にはしていないが、これは、第二次更正処分が行われたことによつて、第一次更正処分が独立の存在を失うに至つたか否かについての見解の相違に基くもので、第二次更正処分によつて第一次更正処分が独立の存在を失つたものと判断される場合には、第二次更正処分における右認定の取消を求める予備的請求が黙示的にではあるがなされているものと解するのが相当である。

二  ところで、原告の指宿観光からの土地購入価額金五、二一四万四、〇〇〇円のうち金二、六〇七万二、〇〇〇円が贈与(寄付金)と認定されることによつて、右の贈与と認定された額の一部(法令によつて、寄付金のうちの損金算入を認められる限度を超える額)は、本件事業年度における原告の所得計算上の損金に算入されないことになるが、他方、本件事業年度における原告の所得計算上の益金に算入される右購入土地の価額が、贈与と認定された額である金二、六〇七万二、〇〇〇円減額される結果、右贈与の認定はこれによつて本件事業年度の原告の所得を増額させることはなく、したがつて、その法人税等租税債務額を増加きせるものではないということができる。したがつて、右贈与の認定の取消請求は第二次更正処分によつて更正された原告の法人税額等の一部の取消請求の趣旨を有せず、第二次更正処分の理由の一つとされた原告が指宿観光から購入した土地の適正売買価額の認定自体の取消のみを求めるに帰する(換言すれば、右土地の適正売買価額は何程かという事実の確認を求めるに帰する)から、不適法な訴といわなければならない。原告は、原告が指宿観光から購入した土地の適正売買価額が何程であつたかは、将来、原告が右土地を売却した場合の譲渡利益の算定、ひいては原告が負担すべき租税債務額等に影響することが予想されるところ、右適正売買価額の認定は時の経過とともに困難となるから、現在その認定を求める利益があると主張するが、現在存否について争のある多数の権利義務の基礎となつている事実であるため、その事実関係の確認が個個の権利義務の存否を確認するよりも、多数の権利義務の存否の紛争を一挙に解決することができるというような特段の事情がある場合は格別、原告の右主張のような将来の、しかも発生するか否かも確定的でない権利義務関係の認定が容易になるというのみで、単なる事実の認定自体に訴の利益を認めることはできないから、原告の右主張は採用できない。

第三第二次更正処分の一部の取消請求について

一  被告が第二次更正処分において原告の本件事業年度の所得金額を第一次更正処分に示した四、五六六万六、〇〇四円から六、〇四七万八、五〇四円に増額更正したこと、これは原告が本件事業年度においてその有する鹿児島新報社株式六万二、〇〇〇株(帳簿価額一株五〇〇円、総額三、一〇〇万円)について株価を一株一二五円、総額七七五万円と評価換をし、帳簿価額との差額一株につき三七五円、総額で二、三二五万円の有価証券の評価損が生じたものと申告したのに対し、被告が、このうち四万株については合併事業年度において原告が既に損金経理をしているものとみなして、本件事業年度における評価損一、五〇〇万円の発生を否認したことによるものであること、原告の有する鹿児島新報社株式六万二、〇〇〇株のうち二万二、〇〇〇株は原告が従前から有していたもの、四万株は原告が昭和三九年九月に南薩鉄道を吸収合併して受入れたものであること、被告が原告の南薩鉄道との合併事業年度の法人税について更正処分をしなかつたこと、原告が合併により南薩鉄道が所有していた鹿児島市下荒田町七三八の四一宅地三九六七平方メートル、同町七三八の三九宅地一七七五平方メートルを南薩鉄道の帳簿価額一、八六七万二、七五〇円で受入れたこと、この二筆の土地の受入当時の帳簿価額と時価との差額(含み益)が、一、五〇〇万円以上あつたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  被告が原告の合併事業年度の法人税について更正処分をしないでおいて、本件事業年度の法人税についての更正処分の理由において、右合併事業年度の経理を原告の申告と異なる取扱にすることの適否について検討するに、これは合併事業年度の所得金額を更正するものではなく、あくまでも本件事業年度の所得金額を計算するうえで合併事業年度の経理を申告と異なつたものとして取扱うに過ぎないものであるから、更正期間の制限(国税通則法第七〇条)に直接抵触するものではなく、しかも更正期間の制限は、右期間経過後に税務署長等が更正処分によつて当該事業年度の法人税を増額することを許さないというにとどまり、当該事業年度における益金あるいは損金の計算じたいを申告どおりの不動のものとして確定させることを意味するものではなく、他にこのような取扱を禁ずべき理由もないので、被告のなした右取扱は、その内容の適否は別として、取扱自体を違法であるとはいえない。

三  そこで、保有資産の評価に変動があつた場合の評価損益と法人税法上の所得金額との関係について検討するに、昭和四〇年法律第三四号法人税法(現行法人税法)が施行された昭和四〇年四月一日より前の昭和二二年法律第二八号法人税法(旧法人税法)が施行されていた当時においては、旧法人税法施行規則一七条および一七条の二によつて、預金、貯金、貸付金その他の債権を除くその余の資産については法人が評価換をし、その帳簿価額を変更した場合に、右各法条に定める限度において、評価換に因つて生じた評価益、評価損を所得金額計算上の益金、損金に算入することになつていた。現行法人税法(昭和四〇年四月一日施行)においても、資産の評価益、評価損が所得金額計算上の益金、損金に算入されるのは、法人が資産の評価換をしてその帳簿価額を変更した場合に限られる点においては変りはない(同法第二五条第一項、第三三条)。すなわち、法人の有する資産の時価に変動があつても、法人が実際にその評価換をして帳簿価額を変更しない限り、税務官庁が法人の有する資産の評価損益をその所得計算に算入することができないことは、旧法人税法、現行法人税法を通じて変りがないのである。したがつて、原告が合併事業年度において、南薩鉄道から受入れた鹿児島新報社株式四万株、前記二筆の土地について、その評価換えによる帳簿価額の変更を行つていない以上、本件事業年度の原告の所得金額の計算に関しても、合併事業年度において右株式について評価損が、右土地について評価益が生じ、それが同年度の損金、益金に算入されていて、所得額算出上は相殺される関係にあつたものと被告がみなすことは許されないものといわなければならない。

四  なお、被告の主張は、原告が合併により南薩鉄道から受入れた鹿児島新報社株式四万株については合併当時被告主張の適正時価一株一二四円で受入れるべきものであるから、原告が帳簿価額一株五〇〇円で受入れた(この事実は当事者間に争いがない。)にもかかわらず、右被告主張適正時価で受入れたものとみなし、したがつて本件事業年度における時価が仮に原告主張の如く一株一二五円であるとしても資産評価にほとんど変動はなく、評価換をすることは許されない、という趣旨とも解せられる。そこで合併時における資産の受入価額の設定について検討する。

被告は、合併により受入れた株式の取得価額は資本充実の原則からみて時価を取得価額とすべき旨を強調するが、合併にあたつて資本充実の原則が作用するのは、合併法人の債権者や株主を保護するため合併法人は被合併法人から受入れる純資産の額に応じて被合併法人の株主に株式を交付すべきことを求めるものであつて、したがつてその前提としてその被合併法人の資産、負債総額を正しく算定しなければならないが、これは個個の資産について税法上原価の算出に必要な取得価額を時価に従つて定めなければならないことまでも意味するものではない。また被告引用の商法二八五条の二は流動資産の評価についての規定であるが、同法第二八五条の六と対比すると株式の評価は第二八五条の二に依らず第二八五条の六の規定によるものと解せられるので、第二八五条の二を根拠とする被告の説明は是認できない。昭和四〇年四月一日から施行の法人税法施行令(昭和四〇年三月三一日政令第九七号)には法人が合併により被合併法人から取得した資産のうちたな卸資産(同令第三二条第一項第三号)、有価証券(同令第三八条第一項第四号)、減価償却資産(同令第五四条第一項第五号)についてその取得価額を定める明文規定があるが、同令ならびに現行法人税法が施行される前日の昭和四〇年三月三一日までは法人税に関する法令にこのような明文の規定は存しなかつた。被告引用の旧法人税法施行規則(昭和二二年三月三一日勅令第一一一号)が昭和四〇年三月三一日まで施行されていたことは明らかであるが、同規則第一九条の六第一項所定の株式等の取得価額に関する規定は、同規則第一九条第一項に照らすと、株式発行法人の合併があつた場合に関するもので、本件のように株式保有法人の合併の場合の規定ではない。右法人税法施行令には遡及的適用に関する規定はないので、租税法律主義乃至法律不遡及の原則にかんがみ原告の合併事業年度の株式の取得価額の算定について右法人税法施行令の適用はないものと解すべきである。

右のとおり被告の主張する法的根拠がいずれも是認できず、他に合併時の株式の時価をもつて取得価額とみなす根拠がないだけでなく、法人の合併は二つの法人が契約により一つの法人に合同することであり、合併法人が被合併法人の株主に合併法人の株式を交付するのと引換えに被合併法人はその有する資産と負債の全財産を合併法人に引きつぐものであるから、その性質は資本取引であり損益の発生を直接の発生の目的とするものではないので、合併法人が被合併法人の帳簿価額をそのまま引きつぐことが許されていると解される。

そうすると、原告の本件事業年度の法人税の所得金額計算のうえで、鹿児島新報社株式四万株についてすでに合併事業年度に評価損を計上しているのでこの部分の損金計上を否認したとの被告の主張は採用できない。

結論

以上のとおりであるから、被告がなした第二次更正処分のうち、鹿児島新報社株式四万株の評価損の計上を否認したことにより、所得金額を四、五六六万六、〇〇四円から六、四七万八、五〇四円に増額更正した部分は違法であり、この部分の取消を求める原告の請求は理由があるのでこれを認容し、原告のその余の訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺井忠 井土正明 楠井勝也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例